エフエルコムログ。

はいふゆーん。
http://www.floeland.com/のブログです。
フローランダーたちの日々のつれづれがこちらになります。
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オウンライナーズ・プリプロローグ
「みんなのっ」
 ギッツ・ザマークの絶叫が、
「かったきいいいいいー!!」
 そう響きわたったところで、記録は途絶えている。
 映像を視覚保存していたパスファインダーが、囮を買って出たザマークを犠牲に逃げおおせたからだ。そうでなければ、一連の記録像はアカデミーに届くことはなかった。

「かたき、か」
 つかつかと最速で歩みながら、ヒル・ロスはひとりごちた。
 ──刻が金で、金がかたきなら、速度ある移動こそが敵を駆逐する最善の抵抗策だ。
 そう思った瞬間にロスは、おのれがいかに急いでいるか悟った。歩いている廊下の風景が異常な速度で後方へ流れていたのだ。いくら火急の事態といえど、いささか歩行増速の略式を重ねすぎていた。
「ヒレさまっじゃなかったヒルさま!」
 かたわらを息を切らせながら駆けていた孫弟子の少女がそう叫んだことで、やっとかのじょの存在に気づくことができた。
「ひとの名をまちがうのは礼を失することだぞ──」
 ロスは少女へ鋭く一瞥をくれて、名を呼ぶ。
「ナニヌネナンタラ」
「こぉっ」
 少女はつんのめったが、しぶとく追いついてくる。
「こっちの、せりふです! ナナネナ・ラフィンラタン!! なん回訂正すればご記憶いただけるのです!?」
 おぼえられるか、とはさすがに言わなかった。かわりにロスは、孫弟子に向けて、
「おまえは弟子筋に、いまのうちにあらゆることを伝えゆけ」
 とだけ告げた。
「あらゆることとは!?」
「現在起こりつつある、ありとあらゆる脅威を、だ」
「は、破局、を……!」
 いま、かのじょがどもったのは、息切れからではないだろう。痛いほどその感情は理解できる。
 だから、ロスは決然とかぶりをふった。
「いいや、伝えるべきは破局を一刻も早くくい止める望みがあること。希望を、伝えよ」
「なにに望まれるのです!? あの記録視界をごらんになってから!!」
 悲鳴のような孫弟子の叫びを片手をかざして制止し、
「そこだ。われわれは観測した。絶望の始まるところを」
「!」
 少女も、かれの声色から感じとったようだ。大人のうそごとではないなにか。最前線にいないがゆえの楽観論や、絶望を押し隠しながら子どもへ告げる気休めではけっしてない、強い想念を。

「多くのひとびとが気づかぬまま、それはすでに進行していた。
 群発する地鳴り、嵐に竜巻、湖(うみ)の異様な満ち干き、そして天候の麻のごとき乱れ。
 符合するようにして、せんだって発見された新たなる島、レギオン・アカデミーから遥か離れた湖(うみ)の底、ひとつの島に発見された『グストーの超旧迷宮』」

「はい……」
 懸命にストライドを伸ばしながら耳を傾ける少女の、つばを飲みこむ音すら聴こえた。

「さきほど調査班全滅の報が届いたとき、わたしもいまのおまえに勝るとも劣らぬ動揺を隠せずにいた。
 新開発のパスファインダーが持ち帰った記録がなければ、いまでもそうだったろう」

「あの記録をっ!? 行方不明の訓戒小隊(アドモニッシュ)に次ぐ実力にて名にし負う、ギッツ踏査小隊(イクスプロラーズ)が、なすすべなく殺戮された一部始終を鮮明に映しだすあの一連の視覚ログに、希望の緒(いとぐち)があったとおおせで!!」

「そうだ」
 力をこめて、口にする。
「あの数瞬のなかにかいま視えた情報群、それをわたしはたしかに感得したし、なによりあの光景を持ち帰ったパスファインダーたちは、いくたびでもくりかえし、映像として検証可能としてくれた」

「新開発の開拓人形を……!」
 いまいましげに吐き捨てる声色。
 その嫌悪に、どこもおかしいところなどなかった。大陸に生きるひとびと、フローランダーズに共通する避けがたい忌避の念だ。
 ひとに仇なすことだけを目的として存在する化物(モンストラム)を捕らえ、技術の粋を集めて改造し、さかしまに道具として使役する技術。高速移動用ビッグバードに端を発し、現状浸透しつつあるものの、あまりに急進的な発想だ。必然的に、うけ容れることをよしとしないものたちもまだ多い。

「そうだ。心せよ。われわれのこれからの戦いは、すべての汚れを負う戦い、理想とかけ離れて得る勝利をつかむための苦行の日々。
 敵は、ギッツ・ザマークを殺したあの影は、背格好も容貌も似通っていながら、まちがいなくかのじょとは別個の存在、むしろかのじょのたどり着こうと希求してやまなかった理想の姿であった。わたしに語って聴かせてくれていたとおりの、気高い姿だった」

「──ザマークどのは、たしか、ヒルさまの……」
 少女がふたたび絶句するのを感じる。むりからぬことと自覚する。恋人を殺され、それでも希望を口にする男。壊れていると誤解されても不自然ではない。

「そうだ。だからわかるのだ、あれらは、けっして、無敵のモンストラムではない。未知の脅威ではない。あたりまえの敵だ。
 かつてアカデミー内で研究され、なにものかに奪われた技術、魂の理想を体現するための肉体を開発する構想があった。映し身でありながら、空蝉(うつせみ)でもある新たな器に魂を載せかえることで、理想にたどりつく早道とする禁断の御業」
「おのれの、鑑……」
「そうだ。鑑たち(パラゴンズ)だ」
 いつのまにやら、ふたりの歩調はごく一般的なひとびとのそれになっていた。ロスが歩行増速を切っていたこともあるが、ふたりとも思考に意識をふり向けたかったのだ。いまは、そちらが重要だ。

「ラフィング・ネンネランタン……。
 その名のとおり、おまえは寝床でほほえみをたたえる、あたたかなともしびとなってくれ。
 これよりわたしが、おまえが語るべきは、われらが生きるこの時代を護るための物語。予見されし、大陸中央に『樹(シヴィラ)』が根を張る未来へわれらの命をつなげるための、いくるひとびとの魂が輝いている、いまのものがたり。
 パラゴンどもを討ち果たすべく、あがくひとびとの苦闘録だ」
「はい」
 孫弟子はおごそかにうなずき、そしてまじめくさった顔でつけ加えた。
「でもわたしの名前はナナネナ・ラフィンラタンです」
 ぜんぜんちがった。

 フローランダーズ、完全新作

 だれの実験によって生みだされたものか、そこはおのれの理想形が具現化して襲いくる、地獄の試練迷宮であった
「ひとりではけっして勝てず、分断によって討ちとられる……なら」
 アカデミー学長の決断は、地獄を呼ぶものだ。
「競いながら戦ってもらおう。パラゴンどもを討ち果たすべく、他者の泣きどころを見抜くに秀で、たがいを出し抜くものたちのために。パスファインダーの特性を駆使し、弱みのすべてを共有させよう」

 ジ・オウンライナーズ・エピソード1

「蠱毒迷宮のさいごに残るのが、ひとりになるとわかっていても」

 トライアンフ・アンド・エラーズ。
 当ブログにて、可能なかぎり週次更新。
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