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フローランダーたちの日々のつれづれがこちらになります。
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オウンライナーズ第1週
あることないこと、始まった。

おれとおなじ名前の人間に初めて逢った、と鬆創旦(すづくりひづる)は端的な感動をした。あらかじめ釘を刺しておくと、とくにこの物語において重要な話ではない。ないが、かれにとっては重要だ。
あまりにも重要すぎて、かれを語るに際して無視できない物語。
2クラス合同授業のときだ。
ヒヅルの名の漢字が、このたびとなりのクラスの人間とかぶった。
しかも女子と。
とはいえ、とヒヅルはまだたかをくくっていた。旦と書いて『ひづる』と読ませるうちの親のセンスはまねできまい、と。
幸いにして席がとなりだったので、というかそれでかのじょの名を知ったため、読みかたを訊ねた。
「あきらって読むの? それとも、あさひ?」

「おはよ」
「おれより悲惨だ……!」
感想を肉声で述べてしまった。

「そう? 気に入ってるよ、この名前」
「そうか……」
「きみもいい名前じゃん、わたしとおなじ字だけあって。ヒヅルなんておしゃれっぽいし」
「どこがだ。というか読みかた知ってたのか」
「気になったもの。むしろきみが知らなかったほうが驚きなんだけど」
含み笑いとともにそう告げて、ノートに視線を戻したのを見届けて、ヒヅルもその動作に倣った。
──おはよちゃん、か。
苗字がなんだか忘れたが、とりあえず印象に残った。
──いい経験をした。この子とこの先の人生で関わることは、ないだろうけどな。
そう思ったきり、他人になる予定だった。
そのはずだった。

ところで話を現在に移す。
ヒヅルはいま、異常な状況に立っている。
といっても──現実の時間からも空間からも自由とされるこの地、『大陸』において、現在という概念じたいこっけいな気もするが。
いえども、足をとらえる重い砂は本物だ。
瀕貧の砂漠と呼ばれる、いかにも景気の悪い土地だった。見渡すかぎり砂と空。『大陸』は天高く飛んでいるとのことだが、どうやら雲海を抜けて高い位置にある半架空の大地の頭上にも、はてしない蒼穹は健在であるようだ。
「おいどうしたヒヅル、息があがってるぞ」
「疲れたなら身体を前に傾けるのをすすめる。余力があるかぎり、おのず足は前方へ踏みだすだろう」
「すみませんがこれ以上行軍を止めるのはなりません」
3人の戦友たちが厳しい。
おそるべき体験を経て、いわゆる異世界へ喚ばれてしまったヒヅルだったが、率直に言って高揚などまったくなかった。
多くのこういった立場のものがそうであるのと同様、かれはそもそも望んでやってきたわけではないのだ。完全な事故によって、ヒヅルの魂は肉体を離れ、大陸に用意された仮想の肉体──『パッケージ』に載せられ、無用な大冒険を強いられている。
「やさしくしろお……選ばれし勇者なんだろおれは?」
「いや、それはそうでもねえんだ」
3人のなかでいちばん小柄な、男の子と見まがう短い金髪の少女が頭の後ろで両手を組みながら白すぎる歯を見せて笑いかけてきた。
「外界びと(オウンライナー)の魂(アーチェルフ)を使うのは、アカデミーの実験のひとつだから、まあ犬に踏まれたと思ってあきらめな、いしし」
「犬に踏まれるていどのダメージならいくらでもあきらめるんだけどな……」
「それちょうどいい。おのずと現れた」
ヒヅルより背の高い、髪も肌も影のように黒くぼんやりとした印象を放つ若い女が、前方を指し示した。
「敵。運命の必然といわざるをえない」
言われて視線を向けて、初めて気がついた。蜃気楼にけぶっていたが、そこにはたしかに、場ちがいに黒々とわだかまる巨大な影があり、そいつがむくりと立ちあがった瞬間、
「すみません、モンストラムです。コードネームはたしか、連ねられた走狗(タグドドッグ)で恐れいります」
恐縮そうに、しかし勢いこんでそう説明するのは元気そうな桃色の両くくり髪の少女だ。じぶんの発言にじぶんでうなずく。そのたび、毛先が元気に空間を跳ねまわる。
「で、戦うわけだ」
「「「そう」」」
こういうときだけ3人の息はぴったりと合う。
3人でようやく一人前の、欠陥パスファインダー。
不完全であろうとなんであろうと、かのじょたちの導きに従ってこの島の大部分を占める砂漠を越えたところに、目的の試練の場は待っているはずだ。

超旧迷宮。

「やるしかないんだよな……」
ヒヅルはおのれの空間を念じた。
迎撃空間。
外界で生きてきたものだけが構成可能な、ヒヅル最大の武器だ。
すでに迫ってきていたドッグは、たちどころに不自由そうに身じろいだ。
迎撃空間は視えない壁と視えない障害物で構成された、かれだけの王国(キングダム)。
ヒヅルだけが、視覚も聴覚も触覚も、六感にいたるまで必要とせず、その世界を識っている。
「うおおっ」
「と……」
「わあっ!!」
パスファインダーたちが思い思いに声を上げ、ドッグめがけて躍りかかり、
ヒヅルはその結果を観るまでもない。

きょうもかれらに、きのうとあすなど、ありはしない。
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